統合失調症のある暮らしのために


・統合失調症は身近な病気です。若いときに発症することが多いです。

 

100人余りに1人が一生のうちにかかる、身近な病気です。10代後半から20代に発症のピークがあります。(人によってはもっと遅いこともあります)

100人余りとはどんな数でしょうか?電車一両、座席とつり革が埋まるくらいの軽い混み具合を想像してください。それで100人余りです。10両編成なら10人。その次の列車も、またその次も。とても多い病気ですね。


・症状と経過

【急性期】

発症の頃には妄想、幻覚(幻聴が多い)、自我障害(させられ体験や「サトラレ」など)、会話や行動がまとまらないなどの特徴的な症状が現れます。人によって異なり、全部あるとは限りません。症状のために社会生活が以前のようにはできなくなった状態が一定期間続くと診断されます。

急性期にめだつこれら「陽性症状」(注1)は、治療によって徐々に軽減します。

【消耗期】 ※大事な時期なので詳しく書きます※

治療が始まり急性期症状がおさまったら消耗期に入ります。脳がひどく疲れているため、独特のつらさがあります。

意欲や関心がなくなった、感情がなくなった、考えられない、身体が重く起きられない、極端な疲労など、主に「陰性症状」(注2)とよばれる症状が強く現れます。寝てばかりになり、親に甘える人もいます。ずっとこのままでは?と悲観し、何もできなくなってしまったと絶望し、死にたくなることがあります。

この消耗期は回復に向かう段階で、一過性です。とにかくゆっくり寝て、エネルギーをためましょう。焦らず、服薬を守り、十分に休み、自然に元気が戻ってくるのを待つことが大切です。多少の波はありますが、薄紙をはぐように少しずつ楽になり元気が出てきます。必ずそれを待ってください。

期間は個人差が大きいですが、およそ2年前後で楽になる方が多いようです。なお消耗期は再発からの回復過程にも現れます。

【回復期・安定期・慢性期】

消耗期を抜けると回復期に入り、エネルギーが戻ってきます。ストレスの少ない場や楽しめることから、徐々に社会生活をひろげることができます。

症状が気にならないほど回復する場合(寛解)もあれば、慢性的に症状が残る場合もあります。幻覚や妄想の出没、興味・関心や意欲が出にくい、考えのまとまりにくさ、体調の波、うつ状態、睡眠障害など、どのような症状が残るかは人によって異なります。

たとえ症状があっても、自分の楽しみや、やりたいことを大切にして無理せず暮らしてゆくうちに、徐々によくなってゆくことが多いです。

 

(注1)もともとないものが「ある」状態を「陽性症状」とよびます

(注2)もともとあるものが「ない」状態を「陰性症状」とよびます


・症状は、脳神経の働きによってあらわれます。

脳神経の細胞と細胞の間をとりもつ「神経伝達物質」の一部のはたらきが、多かったり少なかったりすると症状がでてきます。部分的なアンバランスであり、脳全体が病気になっているわけではありません。その部分を薬で本来の状態に整えながら、ゆっくり回復してゆきます。


・性格や環境、親の育て方などが原因ではありません。自分のせいでも誰のせいでもありません。だから、前を向いていきましょう。

症状のあらわれやすい体質に、なんらかの要因が作用して発症するのではと推測されていますが、詳しくは分かっていません。アレルギーになりやすい体質の人、糖尿病になりやすい体質の人などがいるのと同じです。統合失調症も同じく一般的な病気です。他の病気と同じく、薬で体を本来の状態に整えながら病気とうまくつきあってゆけば大丈夫です。また遺伝の影響もさほど大きくありません。誰でもかかりうるのです。


・薬について

症状は脳神経の働きによってあらわれるため、薬は症状を軽減させ再発を予防する大切なものです。主治医と相談しながら使いましょう。副作用を感じたら主治医に伝えてください。ひとりで中止しないようにしましょう。しかし回復に重要なのは薬だけではありません。おだやかな共感できる人間関係や、希望、やりがいなど、回復のために大切なことはほかにもあります。(後述)


・リハビリテーションについて

デイケアなどリハビリの場では、気楽な活動に参加しながら生活リズムを整えることができます。病気との付き合い方を身につけるための各種プログラム(心理教育等)を行っているところもあります。

障害福祉サービス事業所に通うのもひとつです。

また、日常生活のなかで少しずつ好きなことや家事をしたり、行きたいところに出かけるのも良いリハビリになります。

リハビリテーションは一つのステップです。利用して元気になってきたら、さらに自分の進みたい方向へふみだしましょう。


*共感できるおだやかな人間関係は、とても助けになります。同じ経験をした仲間との交流も大きな支えになります。

 

*希望ややりがいのある暮らしは回復を進める力になります。やりたいことや楽しみを大切にして、あせらず無理せず少しずつやってゆきましょう。

 

*病気は暮らしの一部分にすぎません。


・脳神経のはたらきを助けるコツ

(1)寝る・休む ~睡眠不足や過労(無理)は2日つづけない。疲れたら翌日はペースをおとして。

(2)悩みは外に出す ~不安なこと、つらいことは一人で抱えず、外に出す。話す。書く。

(3)こころに良いことを ~自分の楽しみや、やりがいを大切に。ひどいストレスや、批判的な人との付き合いは避けるのが良。

(4)調子をくずしかけるときのサインを把握 ~対応を決めておけば再発から遠ざかることができます。


・いやな幻聴や被害妄想が薬をのんでも慢性的に続いて、つらいとき

大切なのは正しい知識と、同様の経験をもつ仲間です。

命令や悪口を言ってくる幻聴は昼間に出てきた悪夢のようなものです。夢は自分の無意識のどこかから勝手に出てきますから、自分のことを知っていますが、現実には何の力もありませんね。幻聴も同じです。聞き流すための工夫をして、振り回されないように自分の心を守ってゆきます。苦しい被害妄想のある人は、自分がどのような妄想にとらわれやすいかを把握できると対応しやすくなります。

 

同様の経験をもつ仲間と話し合うことは、とても助けになります。他の人にも似たことがあるという共感や安心感が症状の影響力を小さくします。お互いに対処方法を教え合うこともできます。幻聴や妄想があっても左右されにくくなり、暮らしやすくなります。医療機関やデイケアの心理教育グループや、当事者グループ(下記)が役立つかもしれません。


・支援を使いこなす  障害福祉サービス・障害年金・精神障害者保健福祉手帳 など

まず経済的な支援を知っておきましょう。障害年金、自立支援医療制度による医療費軽減、精神障害者保健福祉手帳で受けられる各種サービス、生活保護等。

また、暮らしをサポートするいろいろな支援があります。障害福祉サービスを使える場合が多く、統合失調症をもつ方々もよく利用しておられます。通える場所、就労の支援、生活の支援、訪問支援、住まいなど。

たとえば、気軽に通える地域活動支援センター。働く準備ができる就労継続支援事業所や就労移行支援事業所。訪問してくれるホームヘルパーや訪問看護。一人での外出が不安なときのガイドヘルパー。一人暮らしが難しいときのグループホーム。

各種支援利用の相談先は、「障害者相談支援センター」や通院先の精神保健福祉士(いれば)など。相談先が分からない場合は役所に尋ねてみましょう。

さらに、一般企業で働く場合、手帳を持っていると障害者雇用に応募できます。ハローワークで相談できます。

 


・当事者グループ

似た経験をもつ人との交流は大きな支えになります。実際の集会もあれば、ネットのSNS内での交流もあります。ネットなら全国どこからでも参加できます。

・実際の集会 : 統合失調症中心の自助グループ、スキゾフレニクス・アノニマス(SA)が各地にあるほか、広く精神疾患をもつ人が集まるグループがそれぞれに活動しています。「○○県 精神疾患 自助グループ」というふうに検索してみましょう。どのグループにも個性があります。自分に合うところをみつけましょう。

・ネット上の交流 : ツイッターは統合失調症をもつ方々の発信が多く、はじめての方も簡単に見ることができます。また、facebookやLINEでの統合失調症グループも活動されているようなので、自分に合う居心地のよいところを探してみましょう。

・家族会 : 近年多彩になり、地域によっては親だけでなく、きょうだい、こども、配偶者などの集まりがあります。各県の「精神保健福祉家族会連合会」に尋ねてみましょう。また、ネット上では統合失調症に特化したLINE家族会が活動されているようです。


・情報はよく選んで使う

インターネットや口コミ、一部書籍で流れる情報の中には、根拠の乏しいものや誤りもあります。情報の選択に留意し、とくに薬の調整は主治医と相談しながら行いましょう。